REDSエージェント、宅建士の由里拓也です。
相続時精算課税選択者が2024年1月1日以後に、相続時精算課税制度を選択した父母から贈与を受けた場合は、一般の贈与の基礎控除とは別に年間110万円の基礎控除を受けられることになりました。
また、一般贈与は、相続人に対する3年以内(2030年までに段階的に7年に延長)の贈与の相続財産に加算されるという持戻し規定が変更されることになりました。
※持戻しとは、遺産分割において、生前被相続人から特別受益を受けた者がいる場合に、その特別受益を相続財産に加えて具体的な相続分の算定を行い、相続人間の公平を図る制度のことをいいます。
今回は、この「相続時精算課税制度」について解説します。
≪国税庁|相続税及び贈与税の税制改正のあらまし≫
(写真はイメージです)
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度を一度選択すると、その選択した父母らからの贈与については、一般贈与(暦年贈与)に戻ることはできず、その選択した父母らが死亡するまで、その贈与者からの贈与は相続時精算課税制度による贈与ということになります。
相続時精算課税制度は、2,500万円まで非課税で贈与できますが、これはあくまでも相続財産の前渡しにすぎないので、その贈与者が死亡したときには、すべて相続財産に加算されることとなっています。
また、一度、相続時精算課税制度を選択すると、年間110万円以下の少額の贈与でも毎年、申告をする必要があります。累積で2,500万円を超えた年以降は、少額の贈与であっても20%の税率による仮払い贈与税を支払う必要があります。
このように相続時精算課税制度は、一般贈与とは違い、贈与額のすべてが相続財産に加算されるなど一般贈与の10分の1以下の利用となっているようです。
≪国税庁|暦年課税及び相続時精算課税別の申告状況の推移≫
年間110万円の基礎控除が追加に
ところが令和5年税制改正において、相続時精算課税制度を推進する観点から、相続時精算課税の選択者が2024年1月1日以後に、相続時精算課税制度を選択した父母から贈与を受けた場合は、一般贈与の基礎控除とは別に年間110万円の基礎控除を受けられることになりました。
たとえば、父親からの贈与は相続時精算課税制度を選択し、母親からの贈与は一般贈与であった場合は、母親からの贈与に対する一般贈与の基礎控除110万円と別に、父親からの相続時精算課税制度による贈与に対しても110万円の基礎控除が受けられることになりました。
また、一般贈与について、相続人に対する一定期間内(2030年までに段階的に3年から7年に延長。以下同じ)の贈与は相続財産に加算されるという持戻し規定があります。そのため、母親からの贈与は3年間から最長7年間の持戻し期間が過ぎるまでの分は相続財産に加算されるのに対して、父親からの相続時精算課税制度による贈与は110万円の基礎控除によって110万円までの相続時精算課税贈与は申告しないでよいだけでなく、父親の死亡時にも持戻し不要となりました。
ただし、これはあくまでも相続時精算課税制度の中で基礎控除であるため、例えば相続時精算課税制度を選択していた父からその後に受けた贈与110万円以下の年については父親の相続時には加算されませんが、300万円贈与を受けた年であれば、110万円を控除した190万円が加算されることになります。
このため、2024年からは、大資産家を除き、相続人のある子に対しては一般贈与よりも相続時精算課税制度を選択したほうが有利になるケースがあると考えられます。
相続時精算課税により贈与した財産は、あくまで贈与したときの評価額で相続財産に加算されることになっています。このため、例えば贈与を受けた建物が相続開始までに災害などにより滅失してしまったとしても、贈与時の評価額で相続財産に加算する必要がありました。
しかし、2024年1月1日以降に起きた災害によって、土地や建物が一定の被害を受けた場合は、贈与の評価額から災害による被害額を控除した額で再評価することが認められることになりました。
相続時精算課税まとめ
1.相続時精算課税は、原則として、①贈与者が贈与の年の1月1日において60歳以上であり、②受贈者が同日において18歳以上で、かつ、贈与時において贈与者の直系卑属である推定相続人または孫である場合に選択することができます。相続時精算課税を選択した場合、その後、同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ変更することはできません。
2.特定贈与者とは、相続時精算課税の選択にかかる贈与者をいい、令和5年分以前の贈与税の申告において相続時精算課税を選択した場合も含みます。
3.同一年中に、2人以上の特定贈与者からの贈与により財産を取得した場合の基礎控除額110万円は、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格であん分します。
(注) 相続時精算課税を選択した場合、その特定贈与者からの贈与について暦年課税の基礎控除の適用はできません。
≪国税庁|相続時精算課税の選択≫
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