REDS不動産流通システムの宅建士、宅建マイスターの菅野洋充です。
この文章は、南海トラフ地震緊急情報(巨大地震注意)が発表された2024年8月8日に書いています。
(写真はイメージです)
2011年「3.11」の経験
東日本大震災の当日、私は妻を迎えに行くために、墨田区へ自家用車で向かいました。スカイツリーの近くで妻と同方向帰宅の妻の同僚をピックアップしたのが午後8時ころ、埼玉県の自宅にたどり着いたのは午前3時を回っていました。
道路は全く動かず、堀切橋を渡ったのは深夜0時ころでした。約6kmを移動するのに4時間もかかっています。葛飾区に入って裏道を通ろうとしましたが、幹線道路に出る手前で渋滞し、意味がありませんでした。道路という道路が車で飽和状態となり、完全に交通がマヒしていました。なんとか家にたどり着くことができた私たちは幸運だったと思います。
ただ、この交通マヒの中、救急車や消防車などの緊急車両の走行が非常に困難な状況であったということを後で知りました。うっすらとした記憶ですが、途中、後ろから来た救急車に道を譲ろうとしても、完全に詰まった道路上で左に自車を動かすのが困難で、なんとか右側を通過した救急車が先に進めず、しばらく横でサイレンを止めていたのを覚えています。
緊急輸送道路とは
「緊急輸送道路」とは、震災などの災害時、緊急車両通行を優先するために一般車両の通行が規制される道路のことです。
「緊急輸送道路」は阪神淡路大震災の後に指定されました。地震の影響で道路が寸断され、緊急車両が災害現場にたどり着くことができず、多くの命が失われたことをきっかけとして、災害時の緊急輸送を確保するための道路ネットワークを構築すべく、各都道府県の公安委員会にて指定されることとなりました。
根拠法としては、
- 災害対策基本法(第36条第1項)
- 道路法(第37条)
- 耐震改修促進法
が挙げられますが、実はこの法律に「緊急輸送道路」という用語はありません。「緊急輸送道路」という文言は、阪神淡路大震災の翌年に出された旧建設省からの以下の通知が、行政用語としての根拠となっているようです。
東日本大震災発災時にはすでに緊急輸送道路の指定はあったのですが、残念ながら機能が不十分でした。これは、交通規制は可能であったものの、車両の強制移動の権限が法で定められていなかったためといわれています。そのため、2014年に道をふさぐ駐車車両の強制移動(しかも移動した車両が破損しても許される)が可能となる法律改正が行われました。
緊急輸送道路の指定がなされたとき、通行中の車両はすみやかに道路から移動を求められ、道路から移動できない場合には、道路の左側に寄せて駐車しなければなりません。道路をふさいで駐車している場合、道路管理者により重機を使って車両の強制移動がなされ、移動時に車が壊れてしまっても(一定の補償制度はあるようですが)移動した道路管理者への責任は問われません。
震災発生時の都内の交通規制
震災発生時の都内の交通規制については警視庁のホームページに記載があります。
第一次交通規制(発災直後)
- 震度6弱以上の地震が発生すると、環状7号線の外から都心部への車両通行が禁止されます。
- 環状8号線から都心方面への車両通行の抑制が行われます。
- 以下の7路線が「緊急自動車専用路」となり、緊急車両以外は通行禁止となります。
・国道246号(青山通り、玉川通り)
・国道20号(新宿通り、甲州街道
・目白通り、新目白通り
・国道17号(白山通り、中山道)
・国道4号(日光街道)
・外堀通り
・高速道路(首都高含む)
第二次交通規制(被害状況確認後)
上記の「緊急自動車専用路」が「緊急交通路」に変更となり、それ以外の特定緊急輸送道路についても必要に応じて「緊急交通路」に指定されます。
※「緊急自動車専用路」は、人命救助・消火活動等に従事する緊急自動車(警察、消防、自衛隊など)および道路点検車などの車両のみ通行可能です。「緊急交通路」は、上記に加えて災害応急対策に従事する車両(災害対策基本法に基づく標章を掲示している車両)が通行可能となります。
不動産取引と緊急輸送道路の関係
最後に「緊急輸送道路」と不動産取引との関係について考えてみましょう。ここには「耐震改修促進法」が非常に大きく関係します。
東京都では「耐震改修促進法」に基づく「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」を策定し、以下のすべての条件に該当する建築物に耐震診断と耐震化の状況報告を義務付けました。
- 敷地が特定緊急輸送道路に接する建築物
- 昭和56(1981)年5月以前に新築された建築物(旧耐震基準)
- 道路幅員のおおむね2分の1以上の高さの建築物
この法令に違反している建物を購入しようしたとき、仮に住宅ローンを利用しようしても銀行から融資を否認されたり、物件の担保評価が著しく低いものとして取り扱われたりする懸念があります。
旧耐震基準のマンションを購入する場合には
- 「緊急輸送道路」に面しているか
- 耐震診断実施済みか
- 耐震強度が足りない場合に耐震工事を行っているか
を確認することが重要となります。
まとめ
8月8日の宮崎県日向灘地震直後に、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表され、巨大地震の懸念は強まっています。東日本大震災から13年、人々の記憶も少しずつ薄れてきていましたが、南海トラフ大地震も、首都直下型地震も、いつ起こるかわかりませんが周期的に必ず起こるものだそうです。決して軽視せず、その日を万全の準備で迎え、被害を最小限にできるようにしたいものです。
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