REDSエージェント、宅建士の有馬春志です。
日本の地熱発電は大きな可能性を秘めていますが、温泉事業者の反対や規制のハードル、険しい山地での建設という困難が伴うために、投資家の意欲が高まりにくい側面があります。
業務スーパーの創業者である沼田昭二氏は、スーパー経営で実績を積んだフランチャイズモデルを活用し地熱発電の推進を目指しています。
地熱発電に取り組む業務スーパー創業者
沼田氏は食品スーパーを1981年に創業。85年に神戸物産を設立し、フランチャイズ展開する業務スーパーの店舗数は1030に達し、時価総額は約1兆円といわれています。沼田氏はそんな神戸物産の経営を長男に引き継ぎ、2016年に地熱発電による中規模発電所開発を専門とする株式会社「町おこしエネルギー」(兵庫県加古川市)を設立しました。
同社のフランチャイズ型開発では、町おこしエネルギー社側が生産井(地熱発電で蒸気や熱水を取り出す井戸)・還元井(生産井から排出される地熱水のうち不用な熱水を地下へ還元するための坑井)掘削などまでを提供する一方、加盟者の地元事業者らが井戸権利料やロイヤルティーを支払うというのが大まかな仕組みです。初期投資をどちらが負担するかで2つの事業タイプに分かれています。
開発地の地形の険しさという難題を克服するために同社が開発した技術も利用することで、調査から操業までの期間を約15年から5年以下に短縮することができるそうです。
ブルームバーグNEFによれば、日本の地熱資源量は米国、インドネシアに次いで3番目に多いのですが、日本の地熱発電導入量は0.5GWで、日本が技術的に利用可能な地熱資源全体のわずか1.5%しか活用されていないといいます。政府は2030年までに1.5GWの地熱発電能力を導入することを目標としています。
8000世帯の年間電力需要をまかなえる町おこしエネルギー社
町おこしエネルギー社は、約8000世帯の年間電力需要をまかなえる約5MWの中規模地熱発電所を、同一の発電条件で設計・開発します。通常、特定の開発地の条件に合わせて調整しなければならない大型の設備よりも、稼働までの期間を短縮することができます。
「日本の地熱開発で一番必要なのはスピード感だ」と沼田氏は指摘しています。
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度では、1万5000kW未満の地熱発電所には、大規模な発電所の約1.5倍高い価格が適用されます。また中規模施設の場合、通常、出力1万kW以上の大規模な施設では必ず実施される環境アセスメントを省略することができます。
裾野が広がる地熱発電
町おこしエネルギー社は、地熱発電に関する開発をビジネスチャンスだけでなく、地域経済活性化プロジェクトとして位置付けています。熊本県小国町で開発中の同社初の地熱発電プロジェクトでは、温泉水をハウスでの野菜栽培に利用。オニテナガエビやヤマトシジミなどの養殖事業も試みています。
「発電所だけではそれほど多くの雇用は生まれませんが、農業など多様な産業に展開すれば、町も業者も潤います」と、同町の担当者。再生可能エネルギー開発はリスクを伴いますが、それを上回るメリットを地域が得られるよう期待しています。
地元と協力する取り組みは他の地域でも行われています。ビル・ゲイツ氏らが設立したベンチャーキャピタル、ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズが支援するベースロードパワージャパンは、岐阜県奥飛騨温泉郷で、くみ上げた熱水を発電利用した後、浴用に適した温度で地元の温泉施設に供給しています。
再生可能エネルギー発電事業などを手掛けるGPSSホールディングスは、新潟県の松之山温泉と協力して地熱発電所を建設し、試験運転を行っています。
地熱発電は今後、確実に広がる
町おこしエネルギー社は、技術や人材面でも独自の工夫をしています。従来の掘削機にかわり、狭い山道を自走する小型掘削機を開発しました。国内で不足する掘削技術者を養成するため、2022年4月には北海道白糠町で専門学校のジオパワー学園を開校し、卒業生4人全員が掘削関連会社に就職しました。2023年度は14人が入学し、将来的には年度あたり80人を募集する予定です。
2024年3月に送電網への供給を開始した小国町のプロジェクトは総工費約100億円。固定価格買取制度に基づく年間売上高は約15億円になる見込みです。
町おこしエネルギー社は間違いなく、日本の地熱発電の設備容量を増やすでしょう。開発期間の長さと設備投資の多さは、日本における地熱発電の大きなハードルの一つであり、同社はフランチャイズ事業でそれに取り組もうとしているとの見方を示しています。
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