石綿(アスベスト)のばく露環境と中皮腫など疾患との関係について解説 | 仲介手数料無料のREDS

皆様こんにちは、不動産流通システム、REDSリフォーム、一級建築施工管理技士補、建築物アスベスト含有建材調査者の木須陽子です。

前回はどのような環境において石綿のばく露が発生するかお話しました。今回はさまざまなばく露環境と疾患の関係についてお話します。

疾患イメージ

(写真はイメージです)

海外の建築物と石綿関連疾患について

建築物の吹付け石綿などによる石綿関連疾患は海外でも多く報告されています。

アモサイト(茶石綿と呼ばれるアスベストの一種)含有量70%の吹付け石綿施工されていた事務所に15年間勤務した54歳の女性が胸膜中皮腫になったことが報告されています。透過型竜子顕微鏡(TEM)により検査したところ、分析のため乾燥させたこの女性の肺1グラム対して3100万本の石綿小体が認められました。また、肺内にあった繊維はその90%がアモサイトでした。

このほかにも、以下のような例が報告されています。

・1991年、吹付石綿のあるビルに20年勤務した46歳の男性の肺がん事例を報告

・吹付石綿のある学校で18年働いた58歳女性に胸膜中皮腫、12年勤務した45歳の男性の腹膜中皮腫の事例の報告

・吹付石綿のされたビルで18年過ごした53歳男性の胸膜中皮腫の報告

・教室にクリソタイル(白石綿や温石綿と呼ばれるアスベストの一種)吹付け、一部はアモサイト+クロシドライト(青石綿と呼ばれるアスベストの一種)吹付けの環境下25年勤務で52歳男性の胸膜中皮腫の報告、45%クリソタイル+1%アモサイト吹付けの環境下で26年勤務43歳女性の胸膜中皮腫の報告、クリソタイル+アモサイト吹付けの教室で64歳女性の腹膜中皮腫の報告。

・1991年学校用務員の中皮腫10名、公共ビル管理労働者の中皮腫7名、民間ビル管理者の中皮腫5名、産業補修労働者の中皮腫7名、教員の中皮腫の12名、合計41名を報告。

・1991年に50歳男性の胸膜中皮腫で高校教員28年(教室の天井にクリソタイル30%、配管にアモサイト10~30%)を報告。

・1992年、262名の中皮腫のうち職業性石綿ばく露117名、その他26名などに分類し、26名のうち16名は家庭におけるばく露であり、さらにこのうち、女性10名が家族ばく露で、男性3名および女性2名は防火パネルの石綿によるばく露、残る女性1名は配管パイプの石綿によるばく露が原因でした。

・1993年、45歳男性の腹膜中皮種で法律の教員の事例を報告。

・1994年に58歳の女性教員で18年間トレモライト(透閃石)にばく露した事例を報告。

・1999年には建築物における石綿ばく露によって中皮腫を発症した事例、教員14名、学校補助員1名、事務員1名、女性事務員1名と、自宅の石綿断熱材が原因と考えられる6名の合計23名の事例を報告。

その後も建築物関連の石綿健康被害の報告が続いています。

日本の建築物と石綿関連疾患について

日本では2004(平成16)年に吹付け石綿のある建築物での中皮腫発症例として、店舗での勤務が原因で発症し、死亡した悪性中皮腫の例が初めて報告されました。70歳の男性で悪性胸膜中皮上皮型と診断され、石綿ばく露歴は家族ばく露なし、自宅居住地近隣に石綿工場はなく、1982(昭和57)年から暮らしている現在の自宅は幹線道路から50mの距離でした。

1969~2002年、私鉄駅高架下にある文具店で店長として勤務、文具店は1階が店舗で2階が倉庫であり、その倉庫の壁に吹付け石綿が使われていました。店長は8時に文具店を開け、21時に帰宅。その間、1日に4、5回は商品を置きに2階に上がり、1日30回は倉庫の商品を取りに行き、月1~2回、和ぼうきで20~30分程度の掃除を行い、年1回は、2~3時間かけて倉庫の大掃除を約30年間行っていました。

2階倉庫の吹付け石綿にはクロシドライトが25%含まれ、中石綿濃度については、2階の静穏時の濃度は1.02~4.2F/L、1、2階に荷物搬入時の濃度は14.0F/L、2階に荷物搬入と清掃時の濃度は136.5/Lで、文具店1階は0.34~1.13F/L、文具店外の大気中の濃度は定量下限値以下(検出できない程度の低濃度)だったのですが、吹付け石綿のある文具店の石綿濃度は大気と比べて高く、文具店で勤務したことが悪性胸膜中皮腫を発症した主な原因と考えられます。

男性の肺からは、クロシドライトの石綿繊維や石綿小体が検出されました。

厚生労働省は、中皮腫や肺がんで業務上疾患として労働者災害補償保険(労災保険)による労災認定または石綿救済法(石綿による健康被害の救済に関する法律)に基づく石綿ばく露作業による労災認定を受けた労働者が所属していた事業場を「石綿ばく露作業による労災認定等事業場」として毎年公表してします。

1999(平成11)~2020(和2)年度までに、1万3163人が労災認定を受けており、そのうち、石綿ばく露作業状況が「吹付け石綿のある部屋・建物・倉庫等での作業」に分類された労災認定は232人でした。疾患としては中皮腫が最も多く、肺がん、石綿肪、良性石締胸水、びまん性膜肥厚も見られます。

※厚生労働省アスベスト(石綿)情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou.roudou/roudoukijun/sekimen/index.html

疾患イメージ

建設業における石綿関連疾患について

労働災害死亡者数と石綿による肺がん・中皮腫の労災認定者数の推移をみると労働災害死亡者数は1999年以降減少したものの、石緒による肺がんと中皮腫の労働災害認定者数は、2006年まで増加し、2007以降は、1年あたり、およそ1000前後で推移しています。そのうちの約半数が建設業従事者でした。

2019年には、石綿による肺がんと中皮腫の労災認定者数が労災死亡者を上回り、その約6割が建設業でした。

建設業従事者の石綿ばく露には、以下の4種類以上のばく露が混在しています。

1.吹付け石綿などの吹付け作業によるもの
2.石綿含有建材切断および加工作業によるもの
3.建築物維持管理・補修時の吹付け石綿および飛散しやすい石綿含有建材によるもの
4.石綿含有建材の除去をともなう改修・解体時の作業によるもの

石綿関連疾患の潜伏期を平均40年とすると、例えば、2010年になって発病した人は1970(昭和45)年前後の新築時にばく露した人が多いと推定されます。補修時の吹付け石綿や、飛散しやすい石綿含有建材によるばく露、改築および解体時の石綿含有建材によるばく露は今後の対策によって防ぐことができます。

建設作業時にばく露防止に注意を払いながら作業することが重要なのです。次回は今後の対策について、調査の重要性についてお話します。

 

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