REDS不動産流通システム宅建士、宅建マイスターの菅野です。今年2024年1月1日の午後4時10分、石川県能登地方(北緯37.5度、東経137.3度)の深さ16㎞(暫定)地点を震源とするマグニチュード7.6(暫定)、最大深度7を観測した地震が発生し、現在も被害が続いています。
※内閣府| 令和6年能登半島地震による被害状況等について
1月26日の時点で死者は236人、そのすべてが石川県で亡くなっています。まだ公式の発表はありませんが、死因は家屋倒壊による圧死が多くを占めているとの報道があります。この倒壊の原因として「キラーパルス」という聞き慣れない言葉が取りざたされています。「キラーパルス」とはいったい何なのでしょうか。また地震から家屋倒壊を防ぐにはどんな対策があるのでしょうか。
「キラーパルス」が家屋倒壊被害の原因?
今回の報道で気になる記事があったのでリンクを貼ります。
「直接死」過去3番目の災害に、原因は「キラーパルス」 能登半島地震 – 産経ニュース
この「キラーパルス」というものが今回の家屋倒壊の甚大な被害につながっているそうなのです。
「キラーパルス」とは、地震の揺れの周期のうち、1〜2秒周期のやや短い震動のことを指します。この揺れの周期は、地震学において「やや短周期」と分類されていて、このような地震の揺れの周期が建物の固有周期に近いほど、建物が大きく揺れやすいとされています。この周期の揺れが、どうやら木造の低層家屋の固有周期に近づくと建物に「共振」が起こり、大きな揺れとなって家屋倒壊へとつながっていくようなのです。
地震の「周期」とは
地震の「周期」とは、地震波が1往復するのにかかる時間のことです(ちなみに、一定期間中に何度振幅があったかを示すのが「周波数」で、「周期」の逆数となります)。
一般的に、地震波の周期が長いほど揺れがゆっくりとした大きな揺れになります。このようなゆっくりした周期の振動を「長周期振動」といいます。逆に「キラーパルス」と呼ばれる周期の振動は「やや短周期」の振動となります。
建物の「固有周期」とは
地震の揺れにはさまざまな周期があり、それぞれの建物には「固有周期」と呼ばれる、特定の周期で最も大きく振動する性質があります。この固有周期は、建物の構造や素材によって異なります。一般的に、建物の高さが高くなるほど固有周期が長くなるとされています。
低層家屋は1~1.5秒の間の周期に共振するそうです。高層マンションなどは固有周期が4~7秒ほどあり、低層家屋とは逆に「長周期振動」によって共振するといわれています。
家屋への被害を大きくする「共振」
戻りますが、木造の低層家屋は、固有周期が1〜1.5秒の範囲にあることが多いため、地震による1〜2秒周期の「キラーパルス」が発生すると、これが家屋の固有周期と一致することがあります。この一致が起きると「共振」という現象が発生します。
共振は、建物が自然に持つ振動の振幅を増幅させ、これによって建物が大きく揺れることになります。この強い揺れが原因で、木造の低層家屋が倒壊する危険性が高まります。
簡単に言うと、地震の「キラーパルス」は、特定の周期の揺れであり、この揺れが建物の固有周期と一致すると、建物は非常に大きく揺れ、結果として倒壊につながるリスクが高まるということです。
「キラーパルス」への対策は
キラーパルスへの対策=地震への強靭化対策といえると思います。その主な対策を6つ紹介します。
耐震等級3の住宅を建てる
日本の建築基準法では、耐震性能を3つの等級で評価しています。耐震等級3は最も高い等級で、耐震等級1の1.5倍の強度を持つ建物とされています。
耐震等級1(建築基準法で定められている最低限の耐震性能を満たす水準)とは、いわゆる「新耐震基準」のことで、
・数百年に一度程度の地震(震度6強から7程度=阪神・淡路大震災や2016年4月に発生した熊本地震クラスの揺れ)でも倒壊や崩壊はしない
・数十年に一度発生する地震(震度5程度)は住宅が損傷しない程度
の建物とされています。そのさらに1.5倍の強度をもつわけで、これには、強固な構造体や耐震性に優れた材料の使用などが必要となります。
建物の壁や柱などにダンパー(制振装置)を設置する
ダンパーとは建物の揺れを減衰させる装置です。これらは建物の主要な構造部に取り付けられ、地震時の振動エネルギーを吸収し、建物の揺れを抑制します。ダンパーには液体を用いたもの、金属やゴムを用いたものなど、さまざまな種類があります。
制震テープなどを施工する
制震テープとは、住宅の地震対策の一つで、地震の揺れを軽減するために柱や梁といった軸材と面材を接合する際に、間に挟むように貼る粘弾性体を厚さ1mm、幅30mmまたは100mmの両面テープ状に加工したものです。
制震テープは、高層ビルの制震装置に使用されている粘弾性体に着目し、両面テープ状にしたことで一般の木造住宅用で採用されるようになりました。制震テープは、柱の変位が起きたとき、柱や梁と面材との間に貼られたテープが変形して地震のエネルギーを吸収し、揺れを軽減する仕組みということです。制震テープは制震ダンパーと比較して施工性が高く、費用が安いという特徴があります。
耐震リフォームを行う
既存の建物に対して耐震リフォームを行うことで、その耐震性を向上させることができます。これには、構造の強化、重量バランスの改善、耐震材料の使用などが含まれます。特に古い建物や耐震性が低い建物にはリフォームが必要かつ効果的です。
免震装置を設置する
免震装置は、建物と地盤の間に設置され、地震の揺れが直接建物に伝わるのを防ぎます。この装置により、地震のエネルギーを直接吸収し、建物への影響を大幅に減少させることができます。免震装置は特に大規模な建物に適用されますが、現在では木造住宅用の免震ゴムというものもあるそうです。
地盤改良工事を行う
地盤改良工事は、建物の下の地盤を強化することで、地震時の地盤の揺れを軽減します。地盤が弱い場所では、このような工事によって地震の影響を減少させ、建物の安定性を向上させることができます。ただ、現在建築物があるところでの地盤改良というのは難しいので、この場合には建物の移動や建て替えが必要となるでしょう。
まとめ
「キラーパルス」と呼ばれるやや短周期の地震動は阪神淡路大震災でも観測され、2007年の能登半島地震で「キラーパルス」と呼ばれ注目されるようになりました。
新潟県中越地震(2004年)や新潟県中越沖地震(2007年)、熊本地震(2016年)でもこのキラーパルスが観測され、どの地震でも家屋倒壊の被害が大きい共通点があります(一方で、2011年の東日本大震災ではこのキラーパルスでの被害はあまり認知されておらず、津波による被害のほうが大きかったということです)。
古い木造家屋は今までに何度かの地震の揺れを受けダメージが蓄積されている可能性があります。そのため、新耐震基準で建てられた建物でも大地震で倒壊する可能性がないとはいえません。現行の建築基準(2000年基準)で建てられた建物ではない住宅に住まわれている場合は、建て替えや耐震リフォーム、お住み替えを検討されてはいかがでしょうか。
地震大国のニッポンで新築の不動産が人気である理由は、安全性や快適性が日進月歩で進化していることを皆様がご理解されているからなのだろうと思います。今回もお読みいただきありがとうございました。
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