REDSエージェント、宅建士・宅建マイスターの渡部です。
令和3年4月に民法の改正がありました。
近年問題となっている【所有者不明土地】の問題の解決を目的とした改正で、不動産取引の実務にも大きな影響がありそうです。
改正の概要は法務省のWEB等を参考にしていただくとして、今回は改正により導入された【ライフライン設備設置権】について触れたいと思います。
新たに導入されたのは以下のような規定です。
民法第213条の2
第1項 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第1項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
「なんと素晴らしい!」と、多くの不動産業界にいる人間が感じる(感じた)ことと思います。
この規定の何が素晴らしいのでしょうか?
建物を利用するためには水道、ガス、電気などのライフラインと接続する必要があります。
特に水道とガスは道路下に埋設管があり、新築時や口径を変更するときは道路を掘削して接続工事をする必要があります。
前面道路が公道でしたら問題はないのですが、私道、特に自分が持分を持たない他人所有の私道の場合、【掘削承諾書】という書面で所有者から承諾を得ないと工事がかなり困難になってしまうのです。私道の名義人がとうの昔に亡くなれていて所有者が不明になっていたりするとかなり大変なのがこれまでの実務でした。
これまで下水についてだけ下水道法という法律に救済規定があったのですが(下水道法11条。不動産業界の人間にはよく知られた法律です)、上水道やガスについては法律の規定はありませんでした。仲介業者でしたらほぼ必ず「(通行)掘削承諾書」の取得手続で大変な思いをしたことがあるものです。すべてではありませんがかなりの銀行が他人所有の私道に接する土地への融資の場合、(通行)掘削承諾書がないと融資の対象外とする、という取扱いをしています(住宅ローンが利用できません)。
今回の民法改正で【ライフライン設備設置権】が明文で認められたことにより、掘削承諾書の必要性はかなり変化してくることが予想されます。
例えば大阪府八尾市は、すでにWEB上で「給水装置工事申込みに伴う承諾書提出義務の見直し」として、承諾書の提出を原則として不要とする扱いに変更するとしています。
法改正に即座に対応し情報を公開する。素晴らしい自治体ですね。
全てのライフラインの管理者が同じ対応になるかどうかは分かりません。
ただ民法に権利が明記された意味は大きく、実務に大きな影響が予想されます。
その結果、これまで融資が付きにくかった「掘削承諾書が取得できない物件」の流通性が高まり、価値が上昇することが考えられます。
改正法は今月(2023年4月)から施行となっています。
ちょうど現在、一部の私道所有者から掘削承諾書が取得できない土地の案件を抱えていて融資先が絞られて困っていました(世の中にこのような土地はとても多いのです)。法改正を受けて銀行の考え方も変わっていくことを期待したいと思います。
それではまた。
渡部
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