皆様こんにちは、不動産流通システム、REDSリフォーム、一級建築施工管理技士補、建築物アスベスト含有建材調査者の木須陽子です。
リフォームや解体工事の需要が増える一方、アスベスト問題が深刻さを増しています。前回は年代別の規制対象となる石綿含有率についてお話をいたしました。今回はどのような環境において石綿のばく露が発生するかをお話いたします。
石綿濃度
肉眼では繊維が空気中に発散していないように見えても、実際には石綿(アスベスト)が高濃度であり、将来の健康を考えて注意を促す必要がある場合があります。他方、極めて低い濃度であっても健康被害を心配する人には、リスク・コミュニケーションを学んだ上で、冷静に石綿濃度と石綿関連疾患との関係を説明することも大事になります。
各種環境での石綿濃度、石綿ばく露の周囲への飛散濃度、掃除の際の再飛散濃度など石綿ばく露について理解するには、さまざまなケースでの石綿濃度のオーダーについて理解することが必要になります。
ばく露量と石綿濃度
石綿は、物理的な力が加わることによって微細な繊維として環境中に飛散します。石綿の雑類、建材の種類、力の大きさによって、環境中の石綿の量は大きく異なります。
ばく露量=ばく露濃度×ばく露期間(年)
ばく露量の増加→リスクの増加(量―反応関係)
一方、石綿は、天然に産する繊維状けい酸塩鉱物で、その繊維は非常に細く、直径が0.02μm(マイクロメートル)という微細さを持っています。肉眼では繊維を空気中に発散していないように見えても、実際には石綿が高濃度であることもあります。
微細な繊維は、落下に時間がかかり、長時間空気中に漂い、長距離を移動するほか、一旦落下しても再飛散することもあります。石綿によるリスクに関して理解するために、さまざまな環境や状況での石綿濃度を理解し、リスクを把握することが調査者にとって重要なのです。
石綿濃度の基準
労働安全衛生法に基づく作業環境測定ではその評価のための管理濃度(0.15f/mL)が定められています。また、公的な基進ではないですが、日本産業衛生学会では許容濃度として0.15f/mL(クリソタイルのみのばく露)、0.03f/mL(石綿を含むばく露)を勧告しています。
許容濃度は、石綿作業に従事する労働者が労働現場での生ばく露を受けたときに、中皮腫と肺がんの発がんリスクが1/1000、つまり1000人に1人が発がんする濃度です。生涯ばく露とは、その濃度で50年間ばく露することを意味しています。
大気環境基準のような一般環境における基準値は、日本では定められていません。大気汚染防止法では、特定粉じん発生施設に係る隣地との敷地境界における規制基準(敷地境界基準)が定められており、その値は10f/Lです。これは石綿を発生させる工場・事業場を対象とした基準値であって、それ以外の一般環境における基準値ではないことに注意する必要があります。
職業ばく露と家族ばく露
石綿吹付作業など職業性石綿ばく露は、高濃度から低濃度まであり得えます。また、作業員が着ていた衣服を経由してばく露した家族のばく露環境、石綿のある建築物で長期間にわたり作業をおこなった場合のばく露環境、通常大気に含まれる石綿濃度など、さまざまな環境でのばく露濃度を知る必要があります。
職業ばく露
1999(平成11)年、飛散事故があった東京都文京区の事故後の検証実験では、除去作業点から15m離れたバルコニーでも1f/mLを超える石綿濃度が報告されています。
除去時に飛散防止対策を十分に講じることで石綿濃度がいかに低減されるのかを知ることは、十分に飛散防止対策がなされていない工事が行われた場合、どの程度の飛散のおそれがあるのかを知ることにつながります。
一方、石綿含有建材の切断や加工・掃除作業時は数/mL~数百/mLの中濃度の石綿濃度の場合が多かったことが報告されています。
家族ばく露(職業ばく露をした作業員の家族のばく露環境の濃度)
飛散防止抑制を散布した状態での吹付け石綿除去作業で、かつ石綿濃度が8.26f/mLの場合、洗濯作業時の濃度は平均0.40f/mL(最大値1.26/mL)であり、洗濯後乾燥機に入れる時点では石綿繊維は検出できませんでした。
家族ばく露は職業性ばく露の1/20前後の濃度となり、水洗後に石綿は水に流れてしまい、服の石綿濃度がゼロとなることがわかります。
建築物ばく露 吹付け石綿のある部屋の濃度
吹付け石綿のある部屋の石綿濃度は、吹付け時の仕上げ状態、吹付け時からの時間の経過による経年劣化やその他の要素によって異なりますが、大気とほぼ同程度の場合から数+8/L(0.001~0.0数8/mL)までの測定値が報告されています。
一般大気
国内の一般大気の測定では、石綿濃度0.1~0.36/Lという結果が多く得られています。
まとめ
石綿濃度は変動しますが、ある作業に伴う作業者の平均的なばく露濃度がわかれば、それにばく露した時間をかけあわせることで、ばく露量を推定することができます。ばく露量が増えることによって、石綿関連疾患が発生するリスクが増加します。
つまり、作業環境中の石綿濃度とばく露期間(年)から石綿のリスクを知ることができるのです。次回はさまざまなばく露環境と疾患の関係についてお話をいたします。
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